火事場の馬鹿力
火事場の馬鹿力
『とんでもなく追いつめられたときに、本来無いほどのパワーを発揮する』
私は
冬の期間
本業の農業がお休みのため
地元の先輩のお土産屋さんにて
働いている
そこで
先日
冒頭でふれた
追いつめられた時に
信じられない程の力が
発揮された事があった。
それは
平日の昼過ぎ
1人で店番をしている時に起きた
地元はスキーの観光地であるが
平日の昼間は基本、暇である。
お土産屋といっても
ソフトクリームなども
販売しており
人気商品は
揚げたてのパンに
ソフトクリームをはさむ
ソフトドッグ!
その日も
暇であったが
5.6人の客が一度に来店し
お土産を買いながら
1人ひとつソフトクリームなどの
注文が入った
その時
さらに新たな客が来店し
レジをしながら
ソフトクリームを作ると
結構待たせてしまうので
急がなきゃとの
思いで
小走りで
ソフトクリームを作りに行き
コーンを片手に
レバーを引くと・・・
今までに味わった事のない
違和感と不安感・・
そして
その原因に気付くまで
2秒とかからなかった
ソフトクリームを作った事がある人は
わかると思うが
利き手にコーンを持ち
利き手ではないほうでレバーをひく
が基本だと思う
私の場合
利き手が右手なので
右手にコーン
左手でレバー
がいつものスタイルであるが
急がなきゃいけない時に
今までやった事のない
左手でコーン
でスタートしてしまった・・
一度スタートしたら
止める事はできない
まさに崖っぷち
しかし
そこで
信じられない程の集中力を
発揮
フリーザーからでてくる
ソフトのクリームが
止まって見えるくらいに
ソフトのクリームが
むしろ
ハードのクリームに
見えるくらいに
一糸乱れぬ
完璧なソフトが完成した
その瞬間
いつもは空いていない
右手で
小さなガッツポーズをした
少々待たせたが
無事
お客様の対応が終わり
ホッと
しながら
これが火事場の馬鹿力か・・
と
感慨深げに
充実感を味わってたところ
ふとある考えが
これは
ただの
うっかりではないのか・・
と
頭をよぎった次の瞬間
ある説が思い浮かんだ
時はさかのぼり
25年前
私は無類のサッカー好きであり
その頃
サッカー漫画の
『蒼き伝説シュート』
に出会い
主人公の田中俊彦にあこがれる
田中は
本来右利きであるが
生ける伝説、憧れの先輩『久保よしはる』
から筋肉のつきかたから
左足のシュートのほうが
威力があると助言され
練習を重ね
‘’幻の左‘’が完成する
例にもれなく
右利きの私も
田中に憧れ
必死に左足の練習を重ね
5年後
普通に左足がまあまあ使えるようになる
幻の左は
幻として
自分の中では終わっていた
もうこれで
わかっただろう。
その幻に終わった
‘’幻の左‘’
が
25年の時を越え
足ではないが
ついに
姿を表したのだ
そう思えた瞬間
喜びで心が満たされた
ただ
私は思う
もう
左手でソフトクリームを
まきまきしない
あの圧倒的な不安感
あの絶望的な違和感
は
二度と味わいたくない
ソフトクリームほど
人生はそんなに甘くない。